阪南コットンワークス 代表:居石和之(すえいしかずゆき)さん
「棉の木を賞(め)でる文化」が育む阪南の新しい未来
地域のキーマンインタビュー第3話は阪南コットンワークス、代表の居石和之さんです。
大阪府阪南市で観賞用としての棉の木の栽培を通じた地域振興に取り組む阪南コットンワークス。その活動の仕掛人となる会長の居石さんに、設立の経緯から今後の展望までお話を伺いました。
日本の棉業と阪南の挑戦
「日本の産業革命期における繊維産業は国のGDPの大半に迫る基幹産業として発展し、その中における綿業の中心地が大阪、とくに泉州地域でした」と居石さんは語ります。大阪は、関西系大手商社の源流となる繊維産業業を中心に栄え、日本の近代化を牽引してきました。その歴史ある土地で、新たな文化創造への挑戦が始まっています。
偶然の出会いから始まった挑戦
「阪南市に来て初めて棉の木を見たのが約10年前です。畑で種まきから刈り取りまでの様子を目にしたことが、現在の活動のきっかけとなりました」と居石さんは活動の原点を振り返ります。
当時、小学生や幼稚園児が綿の収穫体験に訪れる様子を目にした居石さんは、綿栽培が持つ教育的価値と地域振興の可能性に気づきました。「子どもたちが綿に触れ、収穫する喜びを見て、これを地域の文化として育てていけないか」と考えたといいます。
独自の視点での活動展開

2016年に開催された「2016全国コットンフェスティバルin阪南」への参加を機に、本格的な活動を開始。居石さんは「棉の木を賞でる文化を」という独自のコンセプトを掲げ、今まで『消費する』だけだった棉の木という素材を『鑑賞する』という新しい取り組みを展開してきました。
「単なるイベントではなく、地域に根付く文化として育てていきたい」
その思いは、やがて組織的な活動へと発展していきます。毎年11〜12月にかけて阪南市文化センター(サラダホール)正面玄関に4mのコットンツリーを製作展示したり、ワークショップや生花展などに出展したりしています。
また活動の拠点として古民家を改修し、展示やワークショップのスペースとして活用。さらに、耕作放棄地を棉畑として再生し、地域の子どもたちも含めた栽培体験活動を実施しました。
継続的な発展に向けた課題
しかし、85歳という高齢の居石さんは、活動の継続に向けた課題も抱えています。「ボランティアだけでは限界があります。組織を運営し、発展させていける人材が必要です」と、また後継者育成の重要性を強調します。
「とくに今後は情報発信に力を入れたいので、SNSでの受発信を得意とする方を求めています」と具体的な人材像も示されました。
未来への展望
活動10年の集大成として、月別の活動計画や必要な人員配置など、詳細な運営マニュアルも作成しました。「これまでの経験を、次の世代に確実に引き継いでいきたい」という思いが込められています。
コロナ禍で一時中断していた活動も、新たな形で再開しています。
「棉の木の栽培を通じて、地域の方々が集い、学び、創造し、住みよい町づくりに貢献したい」
居石さんの言葉には、観賞用としての棉の木の栽培から紡ぎ出される新たな地域文化への確かな展望が込められています。
歴史ある棉業の伝統を現代に活かし、未来へとつなげていく阪南コットンワークスの挑戦は、地域再生のモデルケースとして注目されています。